過去の類似案件をAIで探す|見積・提案業務の効率化
1.はじめに

「この案件、前にも似たものをやった気がする」
「あの見積、いくらで出したんだっけ」
「担当者が辞めてしまって、過去の経緯が分からない」
見積や提案の仕事をしている会社であれば、一度は経験のある場面ではないでしょうか。
過去の案件には、見積の根拠、提案の工夫、うまくいった点、トラブルになった点など、会社にとって貴重な情報が詰まっています。しかし、その情報が、個人のPCや共有フォルダ、メール、担当者の記憶の中に散らばっていると、必要なときに取り出せません。
結果として、毎回ゼロから見積を作り、似た内容の提案書を一から書き直し、ベテランに聞かないと金額の妥当性が判断できない、という状態になりがちです。
この課題に対して、AIによる類似案件の検索が使われるようになっています。
この記事では、過去の類似案件をAIで探す仕組みと、見積・提案業務での活用方法、導入にあたって経営者が知っておくべきポイントを整理します。
2. 見積・提案業務で起きがちな課題
まず、現場でよく起きている課題を整理します。
過去の案件を探すのに時間がかかる
フォルダを順番に開いたり、メールを検索したり、「あの案件はたしか〇〇さんが担当だった」と人に聞いて回ったり。似た案件を探すだけで、相当な時間が使われます。
案件名やキーワードが分からないと見つからない
従来の検索では、案件名や顧客名、ファイル名などを覚えていないと、目的の案件にたどり着けません。「内容は似ているが、名前は覚えていない」という案件は、探しようがありません。
見積金額が担当者の経験に依存している
過去にいくらで受注したか、どのくらいの工数がかかったかを参照できないと、見積の判断が担当者個人の経験や勘に頼ることになります。担当者によって見積額にばらつきが出たり、経験の浅い担当者が判断に迷ったりします。
ノウハウが属人化している
過去の案件の経緯や工夫が、担当者の頭の中にしかない場合、その人が異動・退職すると、情報が失われます。
3. AIによる類似案件検索の仕組み

AIを使った類似案件検索は、これから対応する案件の内容を入力すると、過去の案件の中から、内容が近いものを探し出して提示する仕組みです。
従来の検索との違いは、キーワードの一致ではなく、内容の意味の近さで探せる点です。
たとえば、「製造業向けの受発注管理システムで、既存のExcel管理から移行したい」という案件を入力すると、案件名や使われている言葉が違っても、「Excelでの受発注管理を、Webシステムに置き換えた案件」を探し出すことができます。
この仕組みは、前の記事で紹介した社内ナレッジ検索(RAG)と、技術的に近い考え方に基づいています。違いは、検索の対象が、案件という単位で整理された情報であることと、見積・提案という特定の業務に特化して使う点です。
4. 何を検索対象にするか

類似案件検索の精度と使いやすさは、「何を検索対象にするか」で決まります。
案件の概要・要件
どんな顧客の、どんな課題に対する案件だったか。依頼内容の概要や、要件のメモなどです。
見積情報
見積金額、内訳、想定工数、前提条件などです。これがあると、「似た案件は、いくらで、どれくらいの工数だったか」を参照できます。
提案内容
提案書の内容、提案時に工夫した点、顧客に響いたポイントなどです。
結果・振り返り
受注できたか、失注したか。実際にかかった工数や費用は見積と比べてどうだったか。トラブルや反省点はあったか。
議事録・やり取りの記録
商談の中で出た要望や、判断の経緯などです。
すべてを対象にする必要はありません。
まずは「案件メモ」と「見積情報」だけのように、整理されていて、かつ効果が出やすい範囲から始めることをお勧めします。
5. 見積・提案業務は、どう変わるか
AIによる類似案件検索を導入した場合、業務は次のように変わります。
導入前
新しい案件の依頼が来る → 担当者が記憶を頼りに、過去の案件を探す → 見つかれば参考にするが、見つからなければゼロから作る → 見積金額を、経験や勘で判断する
導入後
新しい案件の依頼が来る → 案件の内容を入力する → AIが過去の類似案件を候補として提示する → 担当者が参考にしながら、見積・提案を作成する → 見積金額を、過去の実績を根拠に判断する
変わるのは、「過去の案件を探す」部分です。担当者の記憶や、フォルダを探す手間に頼らずに、類似案件を候補として得られるようになります。
一方で、見積金額の決定や、提案内容の最終判断は、引き続き人が行います。ここは、AIに任せるべきではない部分です。
6. 「AIが見積を出す」わけではない

類似案件検索について、よくある誤解があります。それは、「AIが自動で見積金額を決めてくれる」というイメージです。
実際には、AIが行うのは、過去の類似案件を探して提示することです。見積金額そのものを、AIが確定させるわけではありません。
案件ごとに、顧客の状況、要件の細部、利用する技術、納期、リスクなどは異なります。過去の案件が似ていても、そのまま同じ金額になるとは限りません。類似案件は、判断の「参考情報」であり、「答え」ではありません。
この点を理解せずに、「過去の金額をそのまま使う」運用にしてしまうと、条件の違いを見落として、採算が合わない見積を出してしまうリスクがあります。
AIが候補を出し、人が条件の違いを確認して判断する。この役割分担が、見積業務で活用する際の基本です。
7. 導入前に確認しておきたい5つのポイント
1. 過去案件の情報が、どこにどう残っているか
案件の情報が、案件管理システムにまとまっているのか、フォルダ内のExcelや提案書に散らばっているのか、メールにしか残っていないのか。まず、現状を確認します。
情報が散らばっている場合でも、対象を絞って、使えるものから始めることは可能です。ただし、整理にかかる工数は、事前に見込んでおく必要があります。
2. 案件の情報が、検索に使える形で残っているか
案件の概要や要件が、文章として記録されているかも重要です。「見積金額だけがExcelに残っていて、どんな案件だったかの記録がない」という場合、金額は分かっても、類似性の判断ができません。
案件の内容が、最低限、文章として残っていることが、検索の前提になります。
3. 情報の鮮度と信頼性
何年も前の案件は、当時と現在で、技術や単価、市場環境が異なる場合があります。古い案件を、そのまま参考にすると、判断を誤ることがあります。
検索結果に、案件の時期を表示し、いつの案件かを確認できるようにしておくことが重要です。
4. 機密情報の扱い
過去の案件には、顧客名、取引条件、金額など、機密性の高い情報が含まれます。
誰が、どの案件の情報を見られるようにするか、権限の設計が必要です。たとえば、他の部署の案件や、特定の大口顧客との案件は、閲覧を制限するなどの検討が必要になることがあります。
5. 検索結果の活用ルール
検索結果を、見積や提案にどう使うかのルールを決めておきます。
たとえば、「類似案件を参照した場合は、どの案件を参考にしたかを記録する」「金額を決める際は、条件の違いを確認した上で、上長が承認する」といった運用があると、参考情報を適切に活用できます。

8. 効果の測り方
導入の効果は、次のような指標で確認します。
見積・提案の作成時間
1件あたりの見積や提案書の作成にかかる時間が、導入前後でどれだけ変わったか。
過去案件を探す時間
類似案件を探すためにかかっていた時間が、どれだけ短くなったか。
見積金額のばらつき
類似した案件に対する見積額の、担当者間のばらつきが減ったか。
経験の浅い担当者の対応力
若手や新人でも、過去の事例を参考にして、見積・提案を進められるようになったか。
提案の質・受注率
過去の成功事例を活かして、提案の質が向上したか。ただし、受注率は、さまざまな要因が影響するため、類似案件検索の効果だけを切り分けて評価することは難しい点に注意が必要です。
導入前の数字を記録しておかないと、効果を比較できません。見積・提案の作成にかかっている時間を、あらかじめ把握しておくことをお勧めします。
9. ありがちな失敗

案件情報が整理されないまま導入する
案件の内容が記録されていない、情報が古いまま更新されていない、という状態では、検索しても有用な結果は得られません。
類似案件を、そのまま流用してしまう
過去の金額や提案内容を、条件の違いを確認せずに使うと、採算割れや、顧客のニーズとのズレを招きます。
導入後に、新しい案件が蓄積されない
案件が終わったあと、情報を登録する運用が定着しないと、検索対象が古いまま止まり、使われなくなります。案件ごとに、終了時に振り返りと登録を行う運用を組み込むことが重要です。
成功事例だけが残り、失敗事例が残らない
うまくいった案件だけを記録すると、同じ失敗が繰り返される可能性があります。トラブルや反省点も記録しておくと、見積時のリスク判断に役立ちます。
10. まとめ:類似案件検索は「経験を、組織の資産にする」仕組み
過去の類似案件をAIで探す仕組みの要点を整理します。
- 内容の意味の近さで、過去の類似案件を探し出せる
- 見積・提案業務で、「探す時間」を減らし、判断の根拠を得られる
- AIが見積を決めるのではなく、候補を出し、人が条件の違いを確認して判断する
- 検索対象は、案件メモと見積情報など、整理されている範囲から始める
- 案件終了時の登録・振り返りを、運用に組み込むことが重要
過去の案件には、会社の経験が詰まっています。それが、個人の記憶や、フォルダの奥に眠っているのは、もったいないことです。
類似案件検索は、個人の経験を、組織の資産に変える仕組みです。ベテランの知見を共有し、若手の判断を支え、担当者が変わっても品質を保つことにつながります。
見積・提案業務に時間がかかっている、属人化に課題を感じている会社にとって、取り組みやすい領域です。まずは、対象を絞ったPoCから始めてみることをお勧めします。
11. 次の一歩
見積・提案業務の効率化を、一緒に設計できます
弊社では、AI機能を組み込んだ業務システムのスクラッチ開発を中小企業向けに提供しています。類似案件検索についても、対象とする案件情報の整理、権限設計、既存の案件管理システムとの連携まで含めてご相談いただけます。
「過去の案件を活かしきれていない」「見積の判断が担当者に依存している」という段階からでもお気軽にご相談ください。現状をお聞きした上で、御社に合った進め方をご提案します。
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この記事を書いた人
株式会社ウェブロッサムの
代表:水谷友彦
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